イラストが出来てから小説を書くという逆転の発想【天使の街・創作メモ】

ガールズ・ラブ&心霊学園ホラー『天使の街』の“制作秘話”をつづっていくシリーズの第3弾。前回は表紙のイラストの製作工程をご紹介しましたが、今回は各キャラクターのイラストづくりについて解説していきます。

さて、商業小説の制作過程についてくわしいわけではありませんが、カバーのイラストなどは、おそらく著書が作品を書きあげたあと、出版社の編集者がイラストレーターに発注するのではないかと思います。

つまり、小説→イラストの順です。

ところがこの『天使の街』はイラスト→小説という流れになっているのです。

この記事はぎゃふん工房の作品レビューから移植したものです。

イラストを見ながらキャラクターを彫り込む

『天使の街』の登場人物たちがどのような容姿をしているのか。それを考えたのは著者の夜見野レイではありません。今回イラストをお願いしたイラストレーターのミナセさんなのです。

小説のストラクチャー(プロット。あらすじのようなもの)ができた時点で、物語上の役割など簡単な説明をお伝えしたうえで、キャラクターデザインに入っていただきました。

そして、その完成したイラストを見ながら、「このコはどんな性格なのか。趣味は? しゃべりかたは?」などといった“彫り込み”を行なっていったわけです。

まさにセルフ・パブリッシングならではの逆転の発想というわけです。

不思議なもので、そのキャラクターがどんな顔しているのか想像もつかなかったのに、実際にイラストを見ると、まるで前から知っていたかのように「これだ」とはっきり選ぶことができるのです。だから、細かい部分の修正はあっても、複数のデザインのなかでお気に入りを即決することができました。

それでは、各キャラクターについて、イラストレーターさんにお伝えした内容と、実際にでき上がったデザイン案、修正点、そのほかのポイントをご紹介していきましょう。

〈ハルカ〉気が強いけど見た目はおとなしい

●イラストレーターさんへの説明

第1章と第3章の主人公。私立麗宝学園2年生(17歳)。オカルト研究クラブ〈SDK〉のメンバー。クラブの先輩であるマヒルに想いを寄せている。
ネクラではないが、活発なほうではない。どちらかというと、単独行動を好むタイプ。あまり自己主張することはないが、芯はしっかりしている。間違っていることは、親しい間柄でもはっきりNOと言う。

●デザイン案

Haruka draft

●修正点

顔の造形や髪形は左側でお願いします。
立ち絵イラストとして、(他のキャラクターと同様)目線はこちらを向いていたほうがよいかと思います。
また、サキぐらいの明るい表情(微笑)にしていただければと思います。

●ポイント

右側は「芯はしっかりしている」という部分が強調されています。ほかのキャラクターとのバランスや、「見た目はおとなしいけど、じつは気が強い」という二重性を持たせるために、左側が採用となりました。

●完成形はこちら

〈マヨ〉綺麗だけどあどけなさが漂う

●イラストレーターさんへの説明

第1章と第3章では、麗宝学園の国語の教師。25歳。教師歴3年。生徒たちがあこがれるような、けっして嫌味でない美貌を持つ。外見とは裏腹に、とてもさばけた性格で生徒からも慕われている。

じつはマヨ先生のみ、イラストレーターさんより「難航している」とのご連絡が入りました。そこで、追加情報として下記のイメージをお伝えしました。

●東京生まれ、東京の下町の育ち。
●先生として登場するときの年齢は24歳 (教師歴2年目)。
●美人だが、性格はざっくばらん。 下町育ち特有のさばけた感じ。学園の生徒からは頼れるお姉さんというイメージ。
●高校教師に似つかわしくない容姿。 モデルとかイベント会場のコンパニオンをしていてもおかしくない。
●長身で肉感的。でも太っているわけではない。
●顔や体形はちょっと日本人離れしている。 東南アジアのダンサーみたいな感じ。
●服装は、有名化粧品会社の広報担当みたいなデザイン。 (とてつもなくおしゃれなフォーマル服)

●デザイン案

Mayo teacher draft

●修正点

右側でお願いします。
ただ腰に手を当てている格好がヤヨイとかぶってしまうので、 「女性らしい色っぽい」しぐさにしてはどうかと思います (生徒たちとの対比も出せるかと思います)。

●ポイント

採用は右側。左側でない理由は、今回イラストの描かれなかった別の登場人物がまさにこのイメージだったからです。また、マヨ先生は、すっごい綺麗だけど、どこかあどけなさも、ほんの少し漂っている。そんなイメージでした。

●完成形はこちら

〈ナツミ〉清純なイメージなのはどっち?

●イラストレーターさんへの説明

マヨが大学生活最後の夏休みに訪れた観光地で出会った少女(20歳前後)。マヨが泊まる旅館の娘。若女将としてその旅館を切り盛りしている姉がいる。
温和な印象を与える容姿とはうらはらに、意志が強く頑固。融通がきかない。 恋愛に対して、ある種の潔癖症という感じ。

●デザイン案

Natsumi draft

●修正点

顔の造形と髪形は左側でお願いします。 
服装は、少しイメージが違っておりまして、 白か黄色、ベージュあたりの淡い色のワンピースまたはふんわりとしたスカートという感じの衣装にしていただければと思います。
なんとなくナツミは「清純」なイメージです。 顔と髪形は「清純」な感じはしませんが、 これに関してはこのままでOKです。

●ポイント

即決でした。「右じゃなくて左」という比較ではなく、まさにナツミさんはこんな顔。ちょっとびっくりしました。

●完成形はこちら

〈テンシ(マヒル)〉天使であり幽霊でもあり誰も見たことない存在

●イラストレーターさんへの説明

麗宝学園3年生(18歳)。SDKの部長。容姿端麗、才色兼備のスーパー女子高生といった感じ。ハルカとヤヨイ(後述)が想いを寄せている。 物語の序盤から、〈テンシ〉と呼ばれる存在と化してしまい、まともな少女としては登場しない。〈テンシ〉となったマヒルは、美しい外見はそのままだが、心ここにあらずというふうで、畏怖を感じさせる。

マヒルは〈テンシ〉となった姿を描いてもらいました。この小説独自の設定を表現するため、以下の点を付け加えて説明しました。

○テンシは「白い服のようなもの」を着た少女です。
○見た目は普通ですが、顔色は病人のように青白い感じです。
○笑顔だったりしますが、心がこもっていない印象があります。
○ただし、人間だったときの容姿の美しさは残っています。
○「白い服」がどういうデザイン・素材のものなのか、というのは逆にお知恵を拝借したいと思っています(私自身まだしっかりとしたイメージは持っていません)。
○「あの世」と「この世」の中間にいるような存在なので、 非現実的な幻想的なイメージの服だと思っています(ファンタジー RPG に出てくるようなイメージでもOKです)。
○「全体的に白っぽい」というだけで、アクセサリーなどを身につけていてもいいと思います。
○「幽霊」と「天使」両方のイメージを付加できれば理想です。

●デザイン案

Mahiru tensi draft

●修正点

顔は右側でお願いします。ただし、頭の飾りはなしにしてください。
「テンシ」の衣装のデザインは、左側のほうがよいかと思います。 
ただ、ポーズは、あまり人間らしさが出ないほうがいいので、右側のように、単純に立っている感じがよいかと思います(しぐさで感情が表現されないようにしたいと思います)。

●ポイント

〈テンシ〉は〈天使〉ではなく、この作品独自の概念・存在です。といっても、まったく突拍子もない造形のバケモノではなく、いわゆる〈天使〉のイメージもあり、でも心霊ホラーなので〈幽霊〉の要素もあり、なおかつ女の子らしい綺麗さとほんの少しだけ〈エロさ〉も混じり合っているという複雑なキャラクターです。

本来なら文章で描写してそれでおしまいですむのですが、イラスト化のために具体的にイメージする必要があり、非常にやっかいな作業となりました。

●完成形はこちら。

〈サキ〉腹黒さは隠しておきたい

●イラストレーターさんへの説明

麗宝学園1年生(15歳)。SDKのメンバー。 小柄で幼さの残る人形のような少女。頼まれたら拒否できず、何でも言うこ とを聞いてしまうタイプ。SDKのメンバーからも、妹のように慕われている。
しかし、「何でも言うことを聞いてしまう」のは、そのほうが自分にとって都合がよいという計算も働いてる。

●デザイン案

Saki draft

●修正点

顔の造形や髪形は左側でお願いします。 ポーズもこのままで問題ありません(いかにもこんなしぐさをするような気がします)。

●ポイント

サキも「見た目はこうだけど、じつは……」タイプのキャラクターです。右側はサキの“腹黒い”部分が出ていますが、あくまで外見は「みんなのマスコット」のイメージなのです。

●完成形はこちら

〈ヤヨイ〉なぜ制服のボタンを留めない?

●イラストレーターさんへの説明

麗宝学園3年生(18歳)。SDKの副部長。
男勝りのさばけた性格。ちょっと乱暴で、がさつなイメージ。
マヒルに密かに想いを寄せるが、持ち前の不器用さもあって、そのことが、まわりの人間には公然の秘密となっている。
後輩の面倒見もよく、まわりからの信頼も厚い。ただ、恋愛に対して一途なところがあり、後先考えずに暴走してしまう一面もある。

●デザイン案

Yayoi draft

●修正点

顔の造形や髪形は左側でお願いします。
性格としては、気性は荒いのですが、素行不良というわけではないので制服のボタンはきちんと留めているほうがよいと思います。(どちらかというと、お嬢様学校のイメージです)。
ラフだと、ポケットに手に入れているように見えますが、上記の理由から、右側のように腰に手を当てているほうがいいと思います(腰に手を当てるポーズにこだわるわけではありません)。

●ポイント

ここでは「制服のボタンはきちんと留めている」という修正をお願いしたのですが、完成形はそうなっていません。

「ヤヨイはこういうイメージ」→「ボタンは留めているはず」ではなく、「ボタンをはずしている」→「じつはヤヨイはこういう性格」というように、イラスト→人物造形の流れを徹底させました。つまり、「お嬢様学校の生徒がボタンをはずしている理由」を考えることが、ヤヨイの彫り込みにつながるわけです。

●完成形はこちら

〈でもんず〉現代のゴーストバスターズ

●イラストレーターさんへの説明

〈でもんず〉は〈テンシ〉を抹殺するために活動している謎の集団。

メンバーは10人前後で、中身は若い女性である。

公的な組織ではなく、どちらかといえば、クラブ活動に近いノリの集まり。
全体的に赤黒い衣装を身にまとっている(あまり露出は多くない)。
人相がわからないよう顔を隠してる(目、または口だけが見えている感じ)。
手に銃のような武器を持っている。実はこれはプラスチック製の水鉄砲で、〈テンシ〉を怯ませることのできる液体(聖水みたいなもの)が入っている。

〈でもんず〉は少し動きのあるポーズをお願いします。
ファンタジー RPG に出てくるような兵士のイメージですが、 デザインはおまかせです。
ただし、「全体的に赤黒い」「顔を隠している(目または口元あたりは 見えていても可)」「肌の露出は多くない」「武器を持っている」 という条件を満たすようにお願いします。 武器はいちおう水鉄砲のイメージですが、これもおまかせです。 液体を放出できるものであればOKです(杖のような形でも可)。

●デザイン案

Demons draft

●修正点

左側でお願いします。
衣装のデザイン、ポーズ、武器などこれでOKです。
「真剣に戦っている」というよりは「遊び感覚でやっている」 という感じなので、口元が少し笑っているほうがよいかもしれません。

●ポイント

〈でもんず〉のメンバーはふつうの人です。バッグに衣装を入れ、電車やタクシーを使って、戦いの現場へ向かいます。だから、「普段着の上から身につける」というイメージでした。といっても、その点ではどちらも変わらない気がしますが……。強いて言えば、より簡単に装着できそうなほう、といったところでしょうか。「遊び感覚でやっていそうな感じ」がするほうを選びました。

●完成形はこちら

キャラクターはもう作者の頭の中にはいない

頭で考えている間は、どのキャラクターもまだ「作者のもの」という感じがしますが、イラストという形で具現化すると、頭の中から外に出てしまい、ひとりひとりがきちんとした人格を持った存在になります。キャラクターたちが勝手にしゃべったり、行動を起こしたりするようになるのです。イラストがなくても、小説を書いていると、登場人物は勝手に動くものですが、イラスト化することによって、さらにそれが強まります。

読者に容姿を想像させる余地がなくなる、というマイナス面もありそうですが、『天使の街』に限って言えば、この方法は正解だと思っています。

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