仕事の時間を最適化し、小説執筆の時間を確保する
前回は、小説の創作時間を確保するため、仕事の単位時間あたりの生産量を上げて定時に帰る「ワーク・ライフバランス」の考え方を紹介しました。
今回は、仕事を定時で切り上げるためにやるべきこととして、仕事の時間を最適化する方法を考えます。
私が実践しているのが、『「超」整理法』の野口悠紀雄先生が提唱するやりかたです。これまでさまざまなタイムマネジメントの方法を検討・実践してきたのですが、この野口式に勝てるノウハウはない。最強の時間管理法、いや時間「支配」法だと思っています。
ここでは、そのエッセンスをご紹介し、自称・小説家をめざすみなさんの参考にしていただければと思います。
この記事はぎゃふん工房の作品レビューから移植したものです。
〈予定〉には2種類ある
まず、〈予定〉には以下の2種類がある点をおさえておきましょう。
- あらかじめ決まっている(誰かに決められた)予定
- まだ決まっていない(自分で決められる)予定
「1.あらかじめ決まっている(誰かに決められた)予定」とは、たとえば、クライアントとの打ち合わせ、社内会議、プレゼン、納品日などがあります。「2.まだ決まっていない(自分で決められる)予定」の例としては、資料の作成、見積書の送付、メールの送信、議事録作りなどが考えられます。
[1]の予定は、日時を移動できないか、移動するとしても関係者に連絡する必要があったりして容易に動かせないものがあてはまります。それに対して、[2]の予定は、みずからの裁量で自由に配置することができるものを言います。
ふつう「予定をやりくりする」というと、[1]のタイプを想像します。手帳に忘れないように書き留めておく人が多いのも[1]の予定です。
しかしながら、注意を要するのは[2]のタイプの予定です。これの采配に失敗するから、時間を無駄に消費し、残業になってしまうわけです。
時間を見わたして予定を配置する
[2]の予定を管理することを野口先生は「スケジューリング(予定を作る)」と言っていますが、この作業の重要性を図で説明しましょう。
たとえば、今日が水曜日だとして、重要な会議が1週間後の水曜日にあるとします。会議の前に資料を作っておく必要があるのですが、まだ1週間あるので、どこかで時間をとればいいと漠然と考えている。そんな状況を想定してみましょう【図1】。
ところが、金曜日になって、来週は月曜日と火曜日に重要な予定が入っていることがわかりました。会議の資料作りをする時間がないことに気づきます【図2】。
「いや、そんなヤツはいないだろう」「おれはそんなミスは犯さん」。そう豪語する人もいるでしょう。当然です。今は話をわかりやすくするために、単純化した図を示したのですから。
しかし、このようなミスは実際に起こり得ます。なぜでしょう?
それは、来週の「会議」の予定が手帳に書き込んであったとしても、実際の手帳の見え方は下記のようになっているからです【図3】。
ふつうの手帳は、週間になっていて、今週と来週の予定を同時に見ることはできません。月間タイプや2週間タイプのものであっても、「次の週が見えない」時期はあります。見えないのだから、漠然と意識するしかない。
それでも、来週の予定が上図のように「打ち合わせ(A社)」「打ち合わせ(B社)」「会議」だけであれば、なんとかなるでしょう。
ところが、実際の仕事の予定は複雑多岐にわたります【図4】。
そして、それぞれの予定に、さまざまな作業が付随してきます【図5の青字】。
これらの「作業」は、上記の〈予定〉の分類でいえば、「2.まだ決まっていない(自分で決められる)予定」にあたります。これらをスケジュール上の適切な場所に配置することで時間を最適化できるのです。
たとえば、4日(水)「会議」には、「資料作り」と「議事録まとめ」が必要です。しかし、先にも見たように、「会議」は1週間後にもかかわらず、「資料作り」は今週中に行う必要があります。
また、12日(木)の「予算会議」のために、チーム内で「予算検討」をする必要がありますが、その時間はいつとれるのか? 10日(火)と11日(水)が空いているのでここに入れられそうですが、チームのほかのメンバーの都合がつくかわかりません。しかも、9日(月)に「企画書提出」があるのですが、もしかすると、再提出になってしまうかもしれません。そうなると予想外の作業も発生します──。
などといったことを考えながら、まるでパズルのように予定を組んでいく(スケジューリング)していくわけです【図6】。
このようなスケジューリングを頭の中で行うのはほぼ不可能です。だから、手帳をそのためのツールとして用いるのですが、普通の手帳では難しい(失敗しやすい)。なぜなら、先に述べたように、普通の手帳のスケジュール表では、数週間を見わたすことなどできないからです(月間のものであっても、次の月の予定は見えない)。
では、どういうものであれば、適切なスケジューリングが可能か。それは、一定の期間がつねに見えているスケジュール表です。具体的には、野口先生の考案した〈「超」整理手帳〉ということになります。
この手帳のスケジュール表は、各週で紙が折り曲がって(ジャバラ状に)手帳に収納されており、それを広げることで任意の期間を見渡すことができます【図7】。
このようなスケジュール表を駆使して、仕事の時間を最適化すれば、定時までに仕事を終わらせることができ、小説の時間が確保できるというわけです。
ただし、じつは私自身は〈「超」整理手帳〉を使っていません。上のようなジャバラ状のシートを自作しています。その理由は、第4回にご説明します。
手帳とスマートフォン・タブレットを連動する
予定の管理にパソコンやスマートフォン・タブレットを活用している人も多いかもしれません。しかし、このようなデジタル機器ができるのは「1.あらかじめ決まっている(誰かに決められた)予定」の管理です。「2.まだ決まっていない(自分で決められる)予定」のやりくり、つまり「スケジューリング」は、これらの機器で行うことはできません。
その理由は、「一定の期間の予定を見渡しながら、予定を配置していく」という作業がきわめて難しいからです。
ですが、その一方で、〈「超」整理手帳〉にはiPhoneやiPadのアプリがあります。私は紙の〈「超」整理手帳〉は持っていないのですが、このアプリ版は使っています。これはどういうことなのでしょう?
このブログをスマートフォンやタブレットでお読みの方には釈迦に説法なのですが、これらのデジタルツールは「なくても困らないが、うまく使うととっても便利」というシロモノです。
ですから、「予定の管理にデジタルツールがなくても困らないが、うまく使うととっても便利」なのです。
スマートフォンやタブレットが得意とするのは、「閲覧・検索」といった機能です。紙のスケジュール表で行なったスケジューリングの結果(予定)をアプリ版の〈「超」整理手帳〉に入力します。予定の確認はiPhoneやiPad miniで行なうのです。手書きよりも見やすいので、確認もスムーズにできます。予定の検索(とくに過去のもの)にも重宝します。
ここで「iPhone・iPad版の〈「超」整理手帳〉アプリでは『スケジューリング』はできないのか?」という疑問が生じます。正直、私も実践するまで、「アプリがあれば、紙のスケジュールシートはいらないのでは?」と思っていました。しかし、実際に運用してみて、紙の手帳も必要であることがわかりました。
その理由は、すでに述べたように「一定の期間の予定を見渡しながら、予定を配置していく」のが難しいこと。
それに加えて、「スケジューリングにはある種の創作活動(クリエイティビティ)が必要。それは紙の上でしかできない」という理由もあるのではないかと考えています。脳科学的に根拠があるかは知りませんが、実感としてはそう思います。
これは、次回の「メモ術」にも関連することですが、やはり知的作業(の核心部分)は紙の上で行なう必要があり、デジタルツールはそれを補助する道具に過ぎない、ということになります。
先に「パズルのように」と表現しましたが、われわれが思っているほど「スケジューリング」は簡単な作業ではなく、心してかからないと失敗する。それだけ時間という“悪魔”を手なづけることは難しいということなのです。
そして、だからこそ、その“悪魔”を味方につけた者は、世界を制する、ということでもあるわけです。
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