蠱惑魔たちが誘われた、女のすさんだ恋心。
お嬢様学校として知られる私立麗宝学園高等部に入学した瑞乃 杏は、生徒たちの間で密かに〈テンシ〉と呼ばれているエリートたちと知り合う。そのうちのひとりと関係を深めていくが、友達から「〈テンシ〉のなかにバケモノがいる」という噂を聞かされる。真偽を確かめるため、杏はエリートたちと対峙しようとするが……。
一方、ウェブ制作会社に勤める杏の姉・藍は、パワハラとセクハラに悩まされていた。辛うじて同僚のひとりと良好な関係を築いていたが、ちょっとした行き違いから彼女と仲たがいをしてしまう。自責の念と嫉妬の入り交じった感情をこじらせた藍は、仕事を通じて知り合った〈恋愛イノベーション21〉社の社長に相談を持ちかける。そこは、〈テンシ〉と呼ばれるバケモノをビジネスに利用している会社だった。
麗宝学園で密かに行なわれた〈裏・降霊術〉から10年。もちろん、テンシの脅威はなくなっていない。女たちはテンシを求め、テンシは恋する女を求める。〈テンシ〉〈えいりあす〉〈ゆーとぴあ〉。かつて女たちを惑わせたモノどもが再び息を吹き返す——。
*内容は変更する場合があります。
★登場人物★
瑞乃 杏
瑞乃 藍
織部 若葉
織部 翠
「さわってもいいけど……後悔するよ?」
「麗宝学園? あのお嬢様学校で有名な?」
「そう。あのお嬢様学校で有名な」
「ここには女子しかいないんだし、ひとりずつ発表しましょ。いままでで最高のえっちは?」
「なんか昂奮してきた。これが〈つり橋効果〉ってやつ?」
「ちがうんじゃない。わたしたち、もう付き合ってるんだし……付き合ってるよね?」
「あなたもあの本を読んだの? あれはフェイク。ときどき鵜呑みにするコがいるの」
「わたしたちがバケモノだって、どうやって証明するの? 裸にでもなればいい?」
「裏切ったのはそっちでしょ? オトコは嫌い、オンナが好きみたいなフリして」
「あなたは……テンシですか?」
「ばれちゃった?」
「麗宝学園の人に許可をもらったってこと?」
「そうだよ。YouTuberは犯罪者じゃない。不法侵入はダメだよ」
「なんでYouTuberに鍵なんか貸してくれたの?」
「さあ? YouTuberがなにか知らなかったんじゃないの。どうしたの、さっきから」
「これ、罠かもしれない……」
「なんだおまえ、でもんずか!?」
「そんなもの、とっくに解散した」
「テンシがひとりだけって、どうして思ったの?」
「いる。廊下の突き当たり。女の人が。立ってる」
「カメラには映ってないよ。ゆっくり近づいてみてくれる?」
「『でもんず』って、お店の名前の由来はなんですか?」
「結婚なんてしなくても、恋人がいなくても、幸せになる方法はあるはず。でも、その方法がわからない」
「だから、それはテンシさまが教えてくれるわ」
「そのテンシにさえ、私は見向きもされないんですよ?」
「えっ!? 未来さん、麗宝学園に通ってたんですか?」
「そうじゃないけど……あそこにはちょっとした因縁があって……」
「ほら、来てみろよ、おまえらの弱点知ってるぞ」
「それって犯罪じゃないですよね?」
「とんでもない! 法律には反してないわ。ちゃんとしたビジネスよ」
「落ち着いて。バックアップチームを送る。やつらがスマホに干渉してくるのは想定内だから」
「そういえば、10年くらい前、テンシを滅してまわってたコたちがいたわね。それってもしかして、あなたたち?」
「その女の人はどんな顔をしていますか。若い人? それともお婆さん?」
「背中を向けているから……わかりません……」
「なにそれ? そんなので私を滅しようとしているの?」
「心霊スポットに少人数で行くから失敗するんです。100人で突撃したらどうなると思います?」
「妹さん、麗宝学園に今年入学したって言ってたよね? 大丈夫? 変わったことない?」
「いつかはここで暮らしたいと思う。でも、いまじゃない」
「そのしゃべりかた……あんた、昭和生まれ?」
「後悔したり、反省したり、のたうちまわったり……そんなことをする気力すら私には残っていない」
「ここがどんなに素敵な場所でも、だれかにお膳立てされたのではなく、自分で選びとった世界に価値がある……と思う」