「小説の原稿を書かなければいけないのに、なかなかモチベーションが上がらない」「最初の3日間は書いたけど、そのあと続かなくなってしまった」。小説家を目指すみなさんは、そんな悩みを抱えていないだろうか?
今回は、石田淳さんの『いつも結果を出す人の整理する技術』などの著書で提唱されている〈行動科学マネジメント〉を実践して、モチベーションが上がらなくても小説を書きつづけられる方法を紹介する。
この記事はぎゃふん工房の作品レビューから移植したものです。
〈行動科学マネジメント〉って……?
そもそも〈行動科学マネジメント〉とは何か? その概要をなるべく簡単に説明してみよう。
【1】〈行動科学マネジメント〉の基本原則
〈行動科学マネジメント〉では、人間の行動は以下の3つの要素で構成されている、と考える。
- [先行条件]行動の直前の状況
- [行動]発言やふるまい
- [結果]行動のあとに起こった状況の変化
これらを簡単な例で示すとこうなる。
- [先行条件]→お腹が痛い
- [行動]→クスリを飲んだ
- [結果]→腹痛が治った
人は、〈行動〉の〈結果〉が望ましいものであれば、その〈行動〉を繰り返す。そこで〈行動科学マネジメント〉では、のちに述べる方法で〈結果〉を意図的にコントロールして、〈行動〉を継続できるようにするのだ。
【2】〈行動科学マネジメント〉の3つのメリット
次に、〈行動科学マネジメント〉の3つのメリットを挙げてみよう。
1.いつ、誰がやっても同じ結果を出せる
〈行動科学マネジメント〉は、科学的に理論が組み立てられている。したがって、同じ条件のもとでは、同じ結果になる。つまり、「いつ、誰が」やっても、同じ成果を出せるということだ。
2.精神力や根性は一切不要
〈行動科学マネジメント〉では、意志がその人の〈行動〉に及ぼす影響は小さいと考える。「気合が足りなかったからダメだった」「自分には向いていなかった」などと、自分の意志に失敗の原因を求める必要はないのだ。
3.行動を習慣化できる
〈行動科学マネジメント〉の最大の魅力は、挫折しがちな〈行動〉を習慣化し、継続できること。小説の執筆はもちろん、ブログの更新、健康のためのジョギング、資格取得の勉強、仕事の営業活動など、「続けたいのになかなか続けられないもの」に効果を発揮する。
【3】具体的には何をすればいい?
〈行動科学マネジメント〉を具体的にどう実践すればよいのかを説明していこう。
1.ラストゴールを設定する
まず、ラストゴール(最終目標)を決める。このとき、具体的な数値と期限を設定するのがポイントだ。そうしないと、どう行動すればいいかわからない。
たとえば、「売り上げをアップする」ではなく「3割売り上げをアップする」、「行政書士の試験に合格する」ではなく「今年度中に行政書士の試験に合格する」などとする。
具体的なゴールが見えれば、〈行動〉が的確なものになり、目標が実現する可能性も高まるのだ。
2.〈ピンポイント行動〉を見極める
〈ピンポイント行動〉とは、成果に直接的に結びつく行動のことだ。
たとえば、望む〈結果〉が「売り上げアップ」だとする。そこに至るまでの活動には、「見込み客のリストを作る」「ひたすら電話をかける」「提案書を作成する」など、さまざまなものがある。その中でどれが成果に結びつくのかを見極めることが重要だ。
〈ピンポイント行動〉を見つけるのは簡単でない場合もあるが、たとえば、実際に成果を上げている人(会社の先輩など)を観察したりすればヒントは見つかるはずだ。
3.〈ピンポイント行動〉を言語化する
〈ピンポイント行動〉を確実に実行するためには、その内容が具体的に言葉で表現できるものでなければならない。
下記を参考に、〈ピンポイント行動〉を設定しよう。
- [計測できる]回数・範囲・数量などが数値で表わせる。
- [信頼できる]誰が見ても同じ行動だとみなせる。
- [観察できる]どんな行動をしているか誰が見てもわかる。
- [明確化されている]何をどうするかはっきりわかる。
4.〈ピンポイント行動〉を計測する
自分の設定した〈ピンポイント行動〉がほんとうに成果に結びつくかどうかを科学的に検証する。具体的には、行動した回数を計測し、それをグラフ化するのだ。
〈行動〉の回数の増減と、〈結果〉の増減を比較すれば、おのずと効果的な行動(=ピンポイント行動)がわかるというわけだ。
5.〈ピンポイント行動〉を継続する
成果を出すには、〈ピンポイント行動〉を数多く実行しなければならない。しかし、行動したからといってすぐに良い〈結果〉が出るとは限らない。ならば、〈行動〉のあとに望ましい〈結果〉が出るような状況を自分で作り出してしまえばいい。
つまり、〈行動〉を実行したら、自分に〈ごほうび〉をあげるようにするのだ。子どもだましみたいな話に聞こえるかもしれないが、その効果は数々の実験で証明されている。
これが〈行動科学マネジメント〉の真髄というわけだ。
具体的には、次のような〈ごほうび〉がおすすめだ。
ポイントカードを作りスタンプを押す
自分でポイントカードを作り、行動したらスタンプを押す。一定の数がたまったら、豪華な食事など、自分に〈ごほうび〉を与える。
日常生活を思い出してほしい。ポイントを目当てにお店に通ったり、マイルを稼ぐために飛行機に乗ったりする。これらは、みんなポイントカードの効果だ。
カレンダーやグラフに行動を記録する
行動した日はカレンダーに丸をつけたり、グラフ化したりする。これも一定の数に達したら〈ごほうび〉を与える。〈結果〉ではなく〈行動〉を評価することになるので、〈行動〉を継続しやすいのだ。
なお、上記で述べた〈ピンポイント行動〉を計測するために作ったグラフをそのまま利用してもいい。
小説の執筆で〈行動科学マネジメント〉を実践してみた
以上が、〈行動科学マネジメント〉の要点だが、当ブログではその理論を実践し、効果を検証してみた。一部始終を紹介しよう。
[最終目標]2015年5月第1週目までに小説を300ページ書き上げる
まず、上の小見出しのように〈ラストゴール〉を決めた。最終的な目標は「小説を書き上げる」ことなのだが、〈行動科学マネジメント〉の理論にもとづいて「具体的な数値」を入れた。
〈行動〉のスタートは2014年の12月。およそ半年で長編小説(一般的な文庫本1冊のボリューム)を書き上げる計算だ。
[ピンポイント行動を見極める]小説を書く
「小説を書き上げる」という成果を出すための〈ピンポイント行動〉は「小説を書く」ことそのものだ。これはおのずと明らかで、「見極める」必要もないだろう。ここまではっきりとわかる例は少ない。
[ピンポイント行動を言語化する]1週間に1回2時間で20ページずつ小説を書く
〈ピンポイント行動〉は、具体的な言葉で表現されなければならない。そこで小見出しのように期間や頻度、ページ数といった数値を入れてみた。
「1週間に1回2時間」というのは、頻度としてはかなり少ない(普通は毎日書くものだろう)。しかし、個人的な事情もあり、こうせざるを得なかった。それでも、うまくいけば「2015年5月第1週目までに」は書き上がるわけだし、自分で決めた目標と締め切りなのだから、誰かに文句を言われる筋合いはない(プロの作家として注文を受けた原稿でもない)。
また、上で述べた〈ピンポイント行動〉を言語化する際のポイントである、
- [計測できる]回数・範囲・数量などが数値で表わせる。
- [信頼できる]誰が見ても同じ行動だとみなせる。
- [観察できる]どんな行動をしているか誰がわかる。
- [明確化されている]何をどうするかはっきりわかる。
もクリアしているはずだ。
[ピンポイント行動を計測する]グラフを自作する
「小説を書く」という〈行動〉を計測するため、グラフを書き込むシートを作成してみた。
▼横軸に時間(日付)、縦軸に生産量(枚数)をとった。「枚数」は、文庫本の見開きの数に換算するので、最終目標の300ページは150枚(見開き)。1週間に1度しか〈行動〉しないので、「日付」は毎週土曜日になる。
▼さらに、下のように補助線を引いた。これで、目標を達成するために、1回あたりどのくらい〈行動〉すればいいか、具体的な数値がわかった(上記の「1週間に20ページ」という数値は、このグラフに引いた線から割り出したもの)。
*ただ、あとから考えると、これは問題だったかもしれない。その日のグラフがこの線を下回った場合、〈ごほうび〉の役割を果たさなくなってしまう恐れがある。進捗を確認できる効果はあるのだが、「望ましい〈結果〉を自分で作り出してしまう」という趣旨には反するだろう。
[ピンポイント行動を継続する]グラフを手帳にセットし実績を記録
毎回、原稿を書いたら、その枚数の分だけグラフを伸ばしていく。グラフは、どんなに枚数が少なくても、必ず右肩上がりになるのがポイントだ。〈結果〉の量に関わらず、〈行動〉したことそのものが蓄積されていくからだ。
こうして、〈ピンポイント行動〉を継続した結果、あらかじめ設定した期限の1週間前に、予定の枚数を書き上げることができた。
見事、目標を達成したわけだ。
▼ゴールまでグラフが到達したシートの実物。
▼ジグザグな直線ではあるが、着実に最終目標に向かって線は伸びていく。
▼シートは、このように手帳の巻末にセットした(ちなみに、巻頭には、こちらの記事で紹介しているスケジュールシートがセットされている)。
▼シートはジャバラ状になっており、折りたたんで手帳に収納する。これもスケジュールシートの応用。
[振り返り]はたして〈行動科学マネジメント〉の効果なのか?
目標は達成できたわけだが、これがほんとうに〈行動科学マネジメント〉によるものなのかどうかは自信がない。
というのは、〈行動科学マネジメント〉を知る前にも、小説を今回と同じペースで書き上げた経験があるからだ。〈行動科学マネジメント〉を実践しなくても、〈結果〉は同じだった可能性がある。
本来、〈行動科学マネジメント〉は「続けたいのになかなか続けられないもの」に用いてこそ真価を発揮する。少なくとも自分にとっては、小説を書くのに〈行動科学マネジメント〉なんていらなかったのだ。
とはいえ、〈行動〉をグラフにするのはそれなりに楽しい。けっしてマイナスに働くものではないので、やってみて損はない。次回、小説を書くときもこのようなシートを作成するつもりだ。さらに今度はポイントカードも作ってみたい。
というわけで、この記事が小説を書きたい人の参考になれば幸いだ。
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