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ナツミ

ナツミさんは
悲劇のヒロイン!

マヨが大学生活最後の夏休みに訪れた観光地で出会った女(当時20歳)。マヨが泊まる旅館の娘。若女将としてその旅館を切り盛りしている姉がいる。温和な印象を与える容姿とはうらはらに、意志が強く頑固。融通がきかない。恋愛に対して、ある種の潔癖症という感じ。
マヨはナツミに対して強い想いを抱くようになり、これがそもそも物語の発端となる。

マヨが大学生活最後の夏休みに訪れた観光地で出会った女(当時20歳)。マヨが泊まる旅館の娘。若女将としてその旅館を切り盛りしている姉がいる。温和な印象を与える容姿とはうらはらに、意志が強く頑固。融通がきかない。恋愛に対して、ある種の潔癖症という感じ。
マヨはナツミに対して強い想いを抱くようになり、これがそもそも物語の発端となる。

『天使の街』において、ナツミさん(わたしは「なつみん」と呼んでいます)はヒロインです……っていっても、この作品に登場するのは美少女ばかりですから、みんな「ヒロイン」といえます。強いて言えば、なつみんは「悲劇のヒロイン」といったところでしょうか。

なつみんは、岐阜県・じょうはちまんにある旅館の娘さんでした。「でした」と過去形なのは、しばらく実家の旅館の手伝いをしたあと、東京の会社に就職してしまったからです。

マヨ先生女子大生のときに、なつみんの旅館を訪れます。「美人女将の観光案内」というサービスがあり、マヨはそれに申し込んだのでした。

観光案内をするのは、ナツミの姉・フユミさん。まさしく美人女将でした。ところが、ひょんなことから、フユミさんが案内を続けられなくなり、妹に交代します。それが、マヨとナツミの出会いでした。

「そうぎすい……」ナツミが唐突に口を開いた。そして、私の後方を指差した。それにつられて振りかえると、目線の下に、小さい水路。その先に注連縄が飾られた祠のようなものがある。

「宗祇水は、1985年に、環境庁が、名水百選に選んだわき水で……」またしてもナツミが突然しゃべりはじめた。「室町時代の……えっと、あの……」

「ひょっとして、緊張してる?」

「え……? すみません……まだ慣れていなくて……申し訳ありません」ナツミが深々と頭をさげた。そのしぐさはフユミさんにそっくりだった。

「ぷっ」思わず吹き出してしまった。「あっ、ごめんなさい」

「わたしのほうこそ……美人女将の観光案内なのに……姉ができなくなってしまって……」

「いや、でも……女将さんじゃないけど、美人には変わりないから……」

自然に出た言葉だったけど、言ったあとに「はっ」となった。社交辞令のつもりだったのに、ほんとうに美人だと思っただけに、気恥ずかしくなってしまったのだ。

「いや、そんなことはないです……」ナツミが小さい笑みを浮かべながら、そっぽを向く。

なつみんは、ふつうの人ではありません──いや、実は幽霊だったとか、未来から来たとか、アンドロイドだった、とかではありません。

この街に出現する「テンシ」と呼ばれるバケモノを退治する。それが自分の使命だというのです。

ようするに、ナツミは私とおなじ怖がりなのだ。私は怖い映画が好きだけど、幽霊の存在には否定的。もっともらしく語られる怪談も全部つくりものだと思っている。でも、ナツミは幽霊がいると信じている。そういうことだ。

そんなナツミはなんだか愛らしい。乙女ちっくというか……。

「ナツミは幽霊を見たことがあるの?」

「だから幽霊じゃなくて〈テンシ〉なんだけど……あるよ。というより、うちは代々〈テンシ〉を祀ってきた家系なの」

「それじゃこの祠は……?」

ナツミは祠の小さい扉に手をかけた。静かに扉を開け、なにかを取り出した。それを私の目の前に掲げる。 白い折り紙でつくった着物のように見える。

「ここに〈テンシ〉の魂が込められてる」

「これが天使なんだね。可愛いじゃない」

「いいえ。これは〈テンシ〉を滅したあとの姿」

「『滅した』って……」

「うちの家系はね、この〈テンシ〉を亡きものにする役目を負わされていた。でも、それはわたしのおばあちゃんまでで、お母さんやお姉ちゃんは、全然ダメ。逆に〈テンシ〉をもっと積極的に利用しようとしている」

「え? お姉さんも?」

マヨは、テンシに襲われますが、危ないところをナツミに助けられます。

「怖かった……ダメかと思った……」私は泣きべそをかいていた。

突然、ナツミの体が小刻みに震えだした。驚いて、ナツミから体を離す。

「わたしだって、怖かったんだから」ナツミも涙声になっていた。

「だって、何人も救ってきたって……?」

「〈テンシ〉に会ったのは今日が2回目。前のときはおばあちゃんもいたし」そう言いながら、今度はナツミのほうが体を預けてきた。ふたたびナツミの体を包みこむように両腕を背中にまわす。

私たちはなにも言わないまま、しばらくその状態でいた。ときどき私やナツミが鼻をすする音だけが部屋に響いた。

「ねえ……」やがて私のほうから口を開いた。「このままじゃ怖くて眠れない。いっしょにこの部屋で寝て?」逡巡するより先に、言葉が出ていた。

「うん……」ナツミは消えいるような声で答えた。

こうして、マヨはナツミに惹かれていく。マヨ視点の『天使の街』はそんなお話なんですなあ。

でも、「悲劇のヒロイン」なんです。悲劇……辛いです。

マヨ先生に聞いてみよう

──なつみん……じゃなかった、ナツミさんはどういう人でしたか?

マヨ あれ? 今なんで言い直した? 「なつみん」でもいいじゃない。

──いや、変な呼び方をすると、先生が気分を害されるかと……。

マヨ そんなことないよ。ナツミをなんと呼ぼうとその人の勝手だし。

──ほんとかなあ。

「ねえ。ちょっと聞きたいんだけど……」コユキさんが突然、話しかけてきた。「マヨちゃんとナツミってどういう関係?」

「どうって……?」

「ナツミは『マヨ』って、呼びすてにしてるよね?」

それは郡上八幡で、そうするように強制したからで……。

「ナツミの旅館に泊まったんです。郡上八幡の……」

「ナツミの実家って旅館なの?」

「はい……」

「いっしょに仕事をしてるのに、あのコ、自分のことはあまり話してくれないから」

ナツミは家族との折りあいがよくなさそうだから、あまり他人には話したくないのかもしれない。

そんなことより、コユキさんはナツミとおなじ会社の人だということがわかった。これは収穫かも。

「じゃあ、マヨちゃんはナツミとは関係ないんだよね? 私とナツミがそうなっても、平気だよね?」

あ……!?

そうか。そういうことか。

コユキさんは、ナツミのことが好きなのだ。ナツミと付きあいたいと思っているのだ。

──ほら。こんな例もありますし。

マヨ あははは。そうだった。懐かしいな。ま、細かいことは気にすんな。

──話を戻しますけど、ナツミさんに最初に会ったときの印象は?

マヨ まあ、とにかくかわいいよね。この外見にみんなやられちゃうみたい。

──「みんな」って……それは先生だけでは……?

マヨ ちがうよ。ここに出てくるコユキさんもそうだし、●●●もそうでしょ? ……はん? なんだこの伏せ字は!?

──いやあ、マヨ先生のページのヤヨイさんといい、ネタバレは困るなあ。

マヨ だったら小説の登場人物にインタビューしなきゃいいじゃないの。

──とにかくネタバレはなしで。

マヨ ま、いいか……ナツミは、あんな見てくれなんだけど、かなりしっかりしてるよね。そこがみんなから愛されるポイントだと思う。なんといっても、テンシ退治のリーダーだしね。ん? これはネタバレじゃないの?

──しっかり者だけど、言い方を変えれば、妙なトコ硬いですよね。

マヨ そうね。頑固者だね……あと、そうだ、これだけはぜひ言っておきたい。

──なんです?

マヨ 脚がめちゃくちゃ綺麗。

──それは、先生が脚フェチだからでは?

ナツミ

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