〈敵情視察〉は、セルフ・パブリッシングの本を読み、「なぜ面白いのか」を考察して、美味しい部分を自分の作品に取り込んでしまおうという邪悪な意図を持った企画だ。
今回は、アヲイ氏の『無責任姉妹』シリーズを俎上にのせてみたい。
ライトノベルによくある学園モノかと思って読み進めていると、「ん? これは……!?」と、予想と違う展開──いや、味わいに驚かされる。そして、それこそが、本シリーズの魅力だと気づく。
なお、ここで取り上げるのは『1 漆田琴香、煩悶ス。』と『2: 漆田風奈、逆上ス。』の2作。『1』だけでは物語は完結せず、事の顛末を見届けるには、『2』も読む必要がある。
それでは、本シリーズの注目ポイントを挙げていこう。
この記事はぎゃふん工房の作品レビューから移植したものです。
高校の生徒会長選挙は人生の一大事ではない
舞台は、生徒総数2400人を誇るマンモス高校。ここで行なわれる生徒会長選挙で騒動が巻き起こるというストーリーだ。
登場人物は、再選を目指す現・生徒会長に、政権奪取を狙う男子生徒。そこに主人公の〈無責任姉妹〉が絡んでくる。
それにしても、生徒会長選挙である。国政選挙でさえ無関心の人が多くなっている昨今、いったい何人の生徒が関心を持つだろうか。実際、本シリーズでもほとんどの生徒が興味を示していない。
主人公たちにとっては、もちろん目下の関心事ではあるが、人生を賭けるほどのものでもない。
つまり、本シリーズで扱っている“事件”は、もともと誰にとっても“どーでもいいこと”なのだ。そこに本シリーズのおかしみが潜んでいる。
にもかかわらず大人顔負けのはかりごと
そんな生徒会長選挙において、大人顔負けの謀略・陰謀・根回し・裏工作がはびこる。
そう。それは、まるで企業小説を読んでいるかのよう。
もっとも、企業小説であれば、登場人物は“大人”であるから、出世のために他人を蹴落とすこともしよう。手柄を立てるために裏工作もしよう。誇張して表現されることはあっても、等身大ではあるわけだ。
ところが、たかが高校の生徒会長選挙で“泥沼の抗争”。セリフや描写が、いちいちオーバー。そこにミスマッチの妙が生まれているのだ。
しょせんは学校のイベントだから誰も傷つかない
もし、これが企業小説ならば、主人公たちのはかりごとによって、失脚したり職を追われたり堀の向こう側に落ちたりと、何らかの不幸が訪れるだろう。人生を狂わされる者もいるかもしれない。主人公の勝利は、敵の敗北だ。
だが、生徒会長選挙は、そもそも誰にとっても人生に影響するものではない。誰が“勝利”しても、傷つく者などいない。
物語がどんな結末を迎えようと、後味は悪くならないわけだ。
コメディだからこそ作者は笑わない
本シリーズは、生徒会長選挙という“戯れ言”に謀略をめぐらすという“茶番”を描いている。
にもかかわらず、語り口はきわめて硬派だ。
もし、馬鹿馬鹿しい話だからと、文体まで軽薄なものにしてしまえば、読者は逆に冷える。興が削がれること甚だしい。
物語がおもしろおかしいものであるからこそ、作者はけっして笑ってはならない。本シリーズは、この鉄則を誠実に守っている。
また、本シリーズの主人公は女子高生の姉妹で、いちおう美少女と説明されている(表紙のイラストもそのように描かれている)。ところが、意外にも(というのも変だが)恋愛要素がほとんどない。
だからこそ、登場人物のドタバタぶりがより引き立つのだ。
やはりキャラクターが魅力的なのが大前提
これまで挙げてきた要素は、やはり登場キャラクターたちに魅力があるからこそ活きている。
〈無責任姉妹〉は、その名のとおり「無責任」。では、まわりがまともかというと、そういう人物は出てこない(教師も含めて)。
いわゆる“ツッコミ役”が不在であり、騒動に収拾がつかなくなるのが本シリーズの見どころといえる。
とはいっても、それは高校の中で起こるひとつのイザコザにすぎない。主人公が成長するとか、世界が変わるとかいう話ではない。明日からは、また同じ日常が繰り返されていくのだ。
逆にいえば、いつ同じような騒動が巻き起こってもおかしくないわけだ。
本シリーズは続編も予定されているようだが、今度はどんなドタバタが起こるのか楽しみだ。
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