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【敵情視察】〈霊能力者紅倉美姫〉は心霊怪談の王道でありながら……

ガールズ・ラブ&心霊学園ホラーである『天使の街』。この小説の“ライバル”と思われる小説を探し出し、その魅力を分析して、今後の創作活動に活かす。それが【敵情視察】の趣旨です。

今回は、岳石祭人さんの〈霊能力者紅倉美姫〉シリーズ(現在までに5作リリース)をご紹介します。

そもそものきっかけは、岳石さんのブログで『天使の街』に触れていただいているのを見つけたことでした。どんな作品を書かれているかと思い、作品が発表されている「パブー」をチェックすると、これがなんと心霊オカルトホラー。しかも、主人公は美女ふたり。

これは“スパイ”しないわけにはいきませんよね?

まずオカルトの王道パターンが展開

少女の身の回りで自殺やケガなどの不幸が相次いで起こる、心霊オカルト番組で心霊写真を鑑定する、心霊スポットであるトンネルを訪れる──。このように、心霊オカルトの王道パターンを踏襲した物語が展開していきます。

この手の話に興味をそそられる私のような人間にとっては、まさにドンピシャの作品。ワクワクを禁じえません。

とはいえ、ありふれた「心霊怪談」に終始するのかといえば、ちょっと違います。

典型的な「怖い話」の定型をなぞりながら、終盤になると、ちょっとだけ読者の期待をいい意味で裏切るような展開を見せていきます。

というのは、本作品は「ほんとにあった怖い話」ではなく、あくまでフィクションです。だから、「こんなスゴイこと、現実にはあり得ない」と思ってしまうような展開になってもいいわけです。

実話でないことを逆手にとり、作者の想像力と遊び心が発揮されていく。そこが本作品の“おいしい”部分になっているのです。

そしてゲストキャラクターを彫り込み

毎回、オカルト番組への投稿者、霊能力者である主人公への相談者といったゲストキャラクターが登場します。

一般的に「心霊怪談」では、こういったゲストは物語のきっかけを提供するだけで、人物像まではくわしく描写されません。

しかし、〈霊能力者紅倉美姫〉は、前述のように「実話」ではなく「小説」であるため、ゲストキャラクターの置かれた状況や本人の心情が細かく彫り込まれていきます。

つまり、単なる「怖い話」を演出するためだけにセッティングされたキャラクターではない。人間ドラマを背負った存在であるわけです。

人間味あふれるキャラクターに感情移入できる。そこが、小説としての〈霊能力者紅倉美姫〉の魅力といえます。

さらに主人公の美女たちの存在感

〈霊能力者紅倉美姫〉には、霊能力者の紅倉美姫と、彼女のアシスタントをしている女子大生の芙蓉美貴というふたりの美女が登場します。

ただし、人間ドラマを展開させる役目を負っているのは、前述のようにゲストキャラクターです。紅倉美姫と芙蓉美貴は主人公ではありますが、〈狂言回し〉(読者を物語の世界に誘う役)に近い存在です。

たとえるなら、テレビドラマ『世にも奇妙な物語』のタモリ、マンガ『アウターゾーン』(光原伸・著)のミザリィといったところでしょうか。

ただ、本作で彼女たちは、タモリやミザリィ以上に物語に関与しています。だから、純粋な〈狂言回し〉とも言えません。

ゲストキャラクターのドラマと平行して、じつは紅倉美姫と芙蓉美貴のストーリーも進行します。回を追うごとにちょっとずつふたりの謎が明らかになっていく。その趣向もおもしろい部分です。

ただし惜しいところも

紅倉美姫と芙蓉美貴というふたりの美女は、どちらも謎めいていて、とても魅力的です。しかし、ふたりとも尋常でない雰囲気を醸しているために、途中でどっちがどっちだか、わからなくなってしまうことがあります。

そこがとても惜しい。

ふたりのうち一方は、わかりやすい(ステレオタイプの)キャラのほうがよい気がします。

順当にいけば、霊能力者・紅倉美姫が神秘性を帯び、アシスタントの芙蓉美貴は絵に描いたような女子大生──とするところですが、むしろ紅倉美姫のほうを類型的に描き、芙蓉美貴のほうに謎があって、回を増すごとにそれが明らかになっていく、という展開もおもしろいかもしれません(いち読者としての勝手な意見ですが)。

それと、本作品は「パブー」で販売されています(無料作品もあり)。私はePubファイルをダウンロードして拝読しましたが、ファイルは横書きで作成されていました。

しかし、本作品のような“重量感”のある語り口の場合、やはり縦書きのほうが適していると思われます。

「パブー」には、『天使の街』も出しています。ですから、「パブー」のシステムが縦書きに対応していないことは承知しています。「パブー」で縦書きePubファイルを提供するには、月額料金を払い、自分でファイルを作成して、アップロードする必要があります。セルフ・パブリッシングとしては、少しハードルが高いかもしれません。

なので、これもいち読者のわがまま、といえます。

さらに、乗りかかった船で勝手なことを申し上げれば、カバー(表紙)のこと。

イラストは著者自身の手によるものです。作品のテイストに合っているし、主人公ふたりも魅力的に描かれ、素晴らしいと思います。

それだけにタイトルの文字に、もう一工夫ほしいところです。

これはセルフ・パブリッシングの作品が抱える課題でもありますが、せっかくのイラストが生かしきれていない感じがしてしまいます。

いっそのこと、タイトルは手描きにしてしまうのもアリかもしれません。

*我田引水で恐縮ながら、よろしければこちらもどうぞ。イラストは著者ご本人が描けるのでプロに頼まなくてもいいと思いますが、それ以外の仕上げの部分をもう一歩踏み込んでいただければもっとよくなるのではと思います。

まあ、それらはともかくとして、「心霊オカルト」の物語展開にはさまざまなバリエーションが考えられます。つまり、ネタは豊富に転がっている。だから、〈霊能力者紅倉美姫〉も息の長いシリーズになりそうな予感があります。

最新作を楽しみに待ちたいと思います。

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